映画ビジネス研究所

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映画館の空席率を調査したら約85%だった件

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はじめに

こんにちわ、胆石クラッシャー(@ev20405)です。

劇場鑑賞が定額見放題のサービスMoviePassが月額30ドルの料金を、通常の入場料並みの9.95ドルに引き下げることを発表しました。

このニュースで先週アメリカ映画業界に激震が走りました。新たな料金プランでは、

月9.95ドルで毎日1本映画を観ることが可能になります。安い!

animationbusiness.info

3D映画、IMAXは含まれず2Dのみですが、鑑賞する時間、作品や劇場に制限ありません。MoviePassの契約する劇場は米国の映画館の91%をカバーしています。つまり、一般的な映画館のほとんどで、1日1本映画を月10ドル以下で楽しめることになります。

これは衝撃的なニュースですね。月2本映画を観ればほとんど元が取れるわけですから、映画ファンは利用しない手はありません。

アメリカ映画業界が騒然!最大手の映画興業チェーンAMCは声明を発表

 米国映画協会(MPAA)の公表する2016年の映画鑑賞1回の平均チケット価格は、3D映画も含めてだが8.65ドルとのこと。月2本以上映画を観ればもとが取り戻せる計算で、そりゃあ映画興行チェーンからするとふざけんな!って感じですよね。

ハコ系のビジネスではキャパを需要のMAXの時期に大きさを合わせているため、どうしても空席が発生してしまいます。定額制サービスは空席の有効利用や、継続・安定した売り上げが見込める点でメリットがあります。

また、今回の「MoviePass」では大規模な顧客基盤を構築し、映画鑑賞行動に関するデータを集めることがゴールだと説明しており、同様に定額制サービスでは顧客情報を獲得することができます。

www.bloomberg.co.jp

日本でも本・雑誌・コミックスが読み放題の「Kindle Unlimited 」、映画・ドラマ・アニメが見放題の「Netflix」、ナイトクラブ行き放題の「NEON」、月額390万円で銀座の高級クラブ行き放題のサービスなんてものもあります笑

 

また、空席の有効利用できるサービスだと、アメリカには映画のチケットを最大60%OFFで販売する、映画館の空席を埋める集客支援サービス「Dealflicks」があります。上映する映画館・作品・時間などによって映画チケット料金がフレキシブルに割引になるサービスです。

www.dealflicks.com

日本でも新幹線や飛行機は時間や場所によってフレキシブルに金額が設定され、収益の最適化がされていますし、最近ではヤフーがソフトバンクホークス主催のパ・リーグ公式戦の観戦チケットを、AI(人工知能)で需給予測し日々価格を変動する形式で7月1日から発売すると発表しました。

www.itmedia.co.jp

価格変動形式では、試合ごとの需要を機械学習ベースのAIが予測し、需要に応じて価格を変動させる。過去3年間の販売実績データ、リーグ内の順位や対戦成績、試合日時、チケットの売れ行きなどのデータがベースになるという。

2016年に実証実験を行ったところ、購入者から「普段購入できない席を納得できる価格で購入できた」などの好意的な意見が多く寄せられたため、本格的に導入する。

 ヤフーは「価格変動形式は、ユーザーにとっては人気のチケットを適正な価格で購入でき、興行主にとっては収益の最適化が期待できる」としている。

 日本でも他業界では価格調整による収益の最適化が進んでいますが、日本の映画業界ではまだ導入される気配はありません。

 

そこで、今回は日本の映画館の空席率を算出し、もし「MoviePass」や「DealFlicks」のようなサービスが日本に参入した場合、うまくいくのか考えてます。

映画館の空席率がどの程度なのか推計してみる

まず、日本の映画館の空席率を推計してみようと思います。

三井トラストホールディングスが2007年に報告した調査報告「シネマコンプレックスの現状と課題~転換期にさしかかったシネコン経営~」によると、1スクリーンあたりの座席数は180〜200席であることが分かります。

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また、厚生労働省平成23年度に発表した「興行場営業(映画館)の実態と経営改善の方策」によると、2007年度の平均入場料金は1216円、スクリーン数は3221です。

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映画館の営業時間は10〜13時間、13時間〜16時間が多いため、映画の上映時間を2時間とすると、1スクリーンあたりの1日平均上映回数を5回と仮定できそうです。

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また、定休日を設定している映画館はあまりありませんでした。

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以上から、空席率はこの式で計算します。

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ざっくり計算すると映画館の空席率は約85%となりました。高っ!

 

ちなみに、先ほどの調査報告「シネマコンプレックスの現状と課題~転換期にさしかかったシネコン経営~」によると、映画館の損益分岐点が掲載されており、それによると損益分岐点の平均座席占有率は10〜16%程度であることから、この空席率はある程度確からしいことが分かります。

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約85%の座席が機能していないと考えると、かなりもったいなく感じます。逆に言うと、「MoviePass」のような定額制サービスや「Dealflicks」のようなチケットサービスにはかなりポテンシャルがあるのではないでしょうか。

「MoviePass」は果たして成功するのか?

アメリカ映画協会(Motion Picture Association of America)によると、2016年に月1回、もしくはそれ以上劇場に行ったのは観客のわずか11%ですが、その11%のヘビーユーザーが売れたチケットの48%を占めているとのこと。 

www.vulture.com

According to the Motion Picture Association of America, in 2016, just 11 percent of moviegoers went to the theater once a month or more. However, that 11 percent of the audience accounted for 48 percent of tickets sold. The viability of MoviePass depends on the idea that the company could turn the other 89 percent of the United States and Canada into frequent moviegoers.

つまり、残り89%のミドルユーザー、ライトユーザーがどの程度このサービスを利用するかがポイントになります。

現在、「MoviePass」のユーザーの75%は2000年以降に成人を迎えるミレニアム世代で、劇場離れが著しかったミレニアム世代を価格を下げることで確保できていると、「MoviePass」の過半数の株式を所有するHelios and Matheson Analytics Inc. のCEO Ted Farnsworthは語っています。

www.usatoday.com

 "Currently the greatest segment of people moving away from attending movie theaters are Millennials," wrote Farnsworth. "A study commissioned by AMC found that people want to attend theaters for the true cinematic experience. However, the major obstacle is the cost of the ticket. MoviePass eliminates this obstacle -- and consequently, 75% of current MoviePass users are Millennials."

このことから、今まであまり映画館に来ていなかったライト層の発掘にある程度寄与しそうです。

ユーザー分布と収益構造に関しては、実は日本でも同様の現象が起きています。「映画観客はどこにいる?──各種調査から考える」によると、月1回、もしくはそれ以上劇場に行った観客は合計371万人と報告しています。

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平均料金1216円で年12回映画にいくとすると興行収入換算で約541億円になります。これは2007年度の興行収入だと全体の約27%です。月1回以上映画に行くユーザーの回数が確定できていないため、本来はもう少し高くなると考えられます。

 

日本に関しては、映画マーケティング会社「Gem Partners」が「映画興行の“上顧客”はどのぐらい?(映画興行市場の徹底解剖 第2回)」と言う記事で同様に調査をしていて、それによると年間1本から2本のライト層、年間3本から5本のミドル層はそれぞれ47%、32%で市場の8割程度。年間6本から11本のヘビーミドル層が13%強、年間12本以上25本まで見るヘビー層が7%、年間26本以上見る超ヘビー層は2%、年間12本以上のヘビー層と超ヘビー層で約10%であるとのこと。

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つまり、興行収入のおよそ40%が全体の10%程度の年間12本以上見るヘビーユーザーに支えられているんです。こちらのデータだと、アメリカと収入構造はほぼ同じのようです。

「Dealflicks」は成功しそう

定額制サービスに関してはかなり未知数でハードルは高そうですが、「Dealflicks」のようにフレキシブルな価格設定ができるサービスは結構な確率で収益が上げられるのではと思っています。

NTTレゾナント株式会社が2012年に行った「映画館での映画鑑賞」に関する調査結果によると、映画料金値下げによる鑑賞回数の変化で一番インパクトが大きく投資効率が良い値段は1000円でした。

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そのため、仮にサービスの料金最安値を1000円として、年間の入場者数約1億6300万人全員が1000円で入場したとすると、興行収入は1630億円となります。元が1980億円なのでマイナス350億円になります。

このマイナス350億円を回収するには、190席×X%×1000円×5回×3221スクリーン×365日=約350億円の式で計算して、1000円のチケットで85%の空席のうち約30%が埋まればマイナス350億円を回収することができます。

本来であれば、チケットのプライシングはもっと最適化されると考えられるので、損益分岐点はもう少し下がるはずですし、上の表で1800円→1000円に価格を下げることで、約半数が映画鑑賞回数が増えると回答していることから、「Dealflicks」のようなチケットサービスはかなり有望なんじゃないかな〜と思います。 

まとめ

「MoviePass」はアメリカでもそうですが、日本で実現しようとすると映画会社からかなり反発が起きそうです。特にアメリカは配給と興行が独立しており、今回のようなサービスが登場しやすい環境にありますが、日本の場合、東宝東映、松竹の大手3社が配給と興行を一貫して握っているため、なかなか厳しそうです。

「Dealflicks」の方がまだ可能性はありそうです。どちらにせよ、映画会社が同様のサービスをリリースすると他社から反発が起きそうなので、Tverのように全社団結してサービスをつくるか、旧来の慣習にとらわれないIT企業や独立系の劇場が作るしかなさそうです。飛行機では時期に応じて価格を変動させるのは普通にやってることなので、映画業界も是非チャレンジして欲しい!

ただ、これ系のサービスはユーザビリティが収益に直結するため、頻繁なA/Bテスト等、PDCAを高速で回して収益やユーザビリティを最適化させる必要があります(でないとシステムがクソだと評判の「エクスプレス予約」や「えきねっと」みたいなことになりかねません)。となると、開発力やスピードが重要となってくるため、独立系の劇場では難しい。また各社の反発も予想されるので、ある程度企業体力も必要そうです。

以上から、日本でこのようなサービスを生み出すのはベンチャースピリットのある大手IT企業なんかが最適だと考えていますので、リク◼️ートさんとか、チケットキャンプやってるミク◼️ィさんなんかにチャレンジしてほしいです(やるならぜひ誘ってください)。

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